私も活用させて頂こうと思います。以下は、原文のままです。
「生き延びる」を意味する古い土佐の言葉を用い、本社が16年に始めた防災プロジェクト「いのぐ」。その一つとして、障害のある人や家族、支援者の「いのぐ」を考えます。
高知県に暮らす身体、知的、精神の障害者手帳を持っている人は約5万5千人(16年度末)。私たち記者もまず、彼、彼女たちの言葉、言葉にならない思いをみつめることにしました。
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障害者の家族に「SOSファイル」を勧める湯井恵美子さん(高知市丸池町のすずめ共同作業所)
「わが子は何が起きたらパニックになるか、好きなことは何か。そんな情報をどんどん書き込みます」
高知市の障害者事業所。家族会の役員らに、兵庫県立大学大学院・減災復興政策研究科で学ぶ湯井(ぬくい)恵美子さん(51)=大阪府吹田市=が熱心に説明している。
タブレット端末に次々と映し出されるのは、さまざまな記入欄のあるシート。「身の回りのこと」と題して、排泄(はいせつ)や入浴などでできること/できないこと、こだわり、嫌いな音など17ページ分。さらに親族、通っている学校、関わっている福祉・医療機関の連絡先。生育歴。全部で43ページある。
「ホームページ(
http://www.osaka-c.ed.jp/suita-y/sosfile.html
)からダウンロードできます。どんどん使ってやってください」
9月6日、南海トラフ地震に備える高知市内の各施設などと意見交換するために来高していた湯井さん。
22歳の次男に知的障害があり、彼が吹田支援学校高等部に通っていた5年前、PTA会長を務めた。そのころ1年かけて作ったのが、災害時の支援を記し、所持したり関係機関に渡しておいたりする、これらのシートをとじた「SOSファイル」だ。
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「支援学校PTAの集まりが京都であって。聞かれたんです。『今、災害が起きて帰宅できなくなっても、お子さんは大丈夫ですか?』と。そうして教えられたのが、福岡市の支援学校の保護者会連合会が作っていたファイル」
こうも想像した。親が亡くなり、障害のある子が生き残る、ということが災害時には多々ある。こんなファイルがなければ、わが子はどんな扱いを受けるだろう、泣きじゃくっているのではないか―。
「親亡き後のための“遺言”」。そう心に決め、福岡市のものを基に教育や福祉の専門家と作った。
「さらに、吹田支援学校の先生たちが『最低限のコンパクト版も必要では』と提案してくれた。できたのが名刺大の『たすけてカード』。これを名札のように付けた子が一人で歩いていたら声を掛けて、と消防や警察などに周知した。私、警察から3回、次男保護の連絡が来ましたよ」
日ごろから支え合う地域の文化を、ファイルやカードも育んでいる。
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「わが子の特性」を関係機関と共有する取り組みは福祉・教育の世界では広がってきている。本県でも高知市の「サポートファイル」、発達障害のある子を支える県の「つながるノート」や県教委の「引き継ぎシート」などがある。
そういったものを自分で所持し、いざという時、他者に渡せるか。また記入事項が多く、日々の生活に追われる障害児者の保護者が取り組めるか。課題は少なくない。
が、「親が、保護者が腹をくくること」と湯井さんはきっぱり。「ファイルの記入に取り組んだ人は意識も変わります。自分たちも防災、やらねばと。個人情報を渡さなければ、わが子は生き延びられないと」
障害者の母からの、自助の呼び掛けである。