4者協議は、実務者による協議で合意した4つの項目を了承しました。
1つめは、「会場変更の権限はIOCにあること」。
2つめは「マラソン・競歩の会場が札幌に変更された際に発生する新たな経費は、東京都に負担させないこと」。
3つめは「すでに東京都・組織委員会が支出したマラソン・競歩に関連する経費については、精査・検証の上、東京都において別の目的に活用できないものは、東京都に負担させないこと」。
4つめは「マラソン・競歩以外の競技について、今後、会場を変更しないこと」です。
IOC 早期決断の背景
IOCがみずから主導していわば“トップダウン”の形でマラソン・競歩の会場の札幌移転を推し進めた背景にはオリンピックの価値を守ることに加え来年7月の本番を見据えたギリギリのタイミングという事情がありました。
9月27日からおよそ2週間にわたって中東カタールのドーハで行われた陸上の世界選手権では気温が30度を超え湿度も70%を上回る厳しいコンディションのなか女子マラソンや男子の50キロ競歩が行われ途中棄権する選手が相次ぎました。
なかでも女子マラソンでは出場選手のおよそ4割が棄権し選手やメディアからこうした会場を選定したことに批判が相次ぎました。
世界選手権のレースは各国で中継されアスリートファーストの理念のもと選手の命や健康を守ることを重視するIOCはこれまで議論してきた“暑さ”の怖さを目の当たりにした形でこれをきっかけに会場変更に大きくかじを切りました。
世界のトップ選手たちが最高の競技環境で競い合うはずのオリンピックの場でこういう事態を繰り返してはいけない、オリンピックの価値を守らなければいけないという強い危機感を背景に東京の暑さ指数のデータとドーハのデータを比較して、東京でも同じことが起こりうると判断してバッハ会長みずからがイニシアチブをとって会場変更を推し進めた形です。
また、トップダウンで結論を急いだ背景には来年7月に迫る大会に向けたスケジュールがあげられます。
世界選手権の時点で開幕まで10か月を切りさらに大会の準備状況を確認する調整委員会が10月末に迫っていました。
これまでIOCは会場の変更などについては組織委員会と開催都市の東京都それに競技団体が協議してIOCの理事会に承認を求める“ボトムアップ”の形式を取ってきました。
しかし、今回は議論を重ねて会場を変更する時間的な猶予は残されておらず、選手の健康を第一とするアスリートファーストを最優先に考え異例の“トップダウン”で会場変更を推し進めました。
札幌のコース 大通公園をスタート・ゴールが最有力
札幌で実施する場合、マラソンのコースは札幌市中心部の大通公園を発着する既存の北海道マラソンの案を最有力に課題の洗い出しを行っています。
コースについてはIOCが札幌ドームを発着する案を提案していましたが、ドームから公道につながる出入り口の幅が狭い上、ドームを借りられる期間が限られることなどが支障となっています。
すでに大会まで9か月を切り、これから雪が積もるとコースの測定などが難しくなるほか、来月開かれるIOCの理事会でコースの方向性を報告することを目指していることから、早急なコース設定のため既存のコースが優先される形です。
ただ、関係者によりますと札幌市の大通公園を発着点とする場合、大規模な観客席を設けることはスペースの面などで厳しいことから、チケット販売が行われない可能性もあるということです。
一方、競歩のコースについてもマラソンコースの一部を使用することが検討されています。
課題が山積 1 チケット
このほかにもマラソンと競歩の会場を札幌に移すにあたってさまざまな課題があります。
1つは観戦チケットの取り扱いです。
すでに男子マラソンと女子マラソンを新国立競技場で観戦するチケットは販売されています。
札幌に移す場合、組織委員会は払い戻しに応じる方針ですが、女子マラソンは女子砲丸投げ決勝や男子400メートル予選などを含んだチケットになっていて、どのように払い戻すかは検討中です。
また、当選してチケットを購入した人たちについて、組織委員会マーケティング局の鈴木秀紀次長は「抽せんを経て購入していることを踏まえて、購入した人に寄り添う形でできるだけ丁寧に対応したい」と話しています。
2 日程
日程をどうするかも新たな議論となりそうです。
現在、マラソンは女子が8月2日、男子が8月9日、競歩は男子20キロが7月31日、女子20キロが8月7日、男子50キロが8月8日と日程が離れています。
IOCが札幌への会場移転を表明したことを受けて、国際陸上競技連盟は急きょ、男女のマラソンを同じ日に行うなど、マラソンと競歩の日程を3日間に短縮して行うことの検討を始めました。
しかし、全体のスケジュールに影響を与えるだけに、今後の議論の行方が注目されています。
3 宿泊
また、夏の観光シーズンで全国から観光客が訪れる札幌市で、選手や関係者の宿泊施設をどう確保するかも課題です。
関係者によりますと、IOCは24時間食事を取れるといったサービスを受けられる選手村の「分村」はしなくていいという意向を示していることです。
ただ、セキュリティーの問題もあることから、一定程度の水準を満たした宿泊施設を確保できるよう、組織委員会はすでに調整を始めています。
4 ボランティア
運営スタッフやボランティアの確保も大会の運営に欠かせません。
東京大会では競技会場や選手村などで活動する「フィールドキャスト」と呼ばれる大会ボランティアに8万人を選んでいます。
このうちマラソンと競歩にどの程度の規模のボランティアが必要か明らかになっていませんが、組織委員会は北海道在住のボランティアのほか「札幌でも活動可能」として申し込んでいる道外のボランティアを充てることも検討しています。
ただ、長い沿道での活動など人手が必要だけに、十分な運営スタッフやボランティアを確保できるかは不透明です。
5 心のレガシー
会場が開催都市の東京から変更するにあたり配慮が必要なのが、心のレガシーをどう残すかです。
マラソンはオリンピックの花形種目で、男子マラソンは閉会式の当日に新国立競技場で行われる唯一の種目です。
東京オリンピックのマラソンとほぼ同じコースで9月行われた代表選考レース、MGC=マラソングランドチャンピオンシップには日本陸上競技連盟によりますと沿道に52万5000人の観客がつめかけたということです。
マラソンと競歩はチケットがなくても沿道で観戦できる数少ない種目で、関係する地元の人たちも開催に向けた機運の醸成を図ってきただけに落胆の声があがりました。
このため、IOCのバッハ会長は都民への対応として、大会後に東京オリンピックのマラソンコースを活用した「オリンピックセレブレーションマラソン」というマラソン大会を開催したいという考えを示しています。
ただ、「国立競技場でゴールをしたかった」という選手たちの思いも残されていて、これにどう応えるかも今後の課題となりそうです。
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