映画『君の名は。』の主題歌を手がけたことでも知られる人気ロックバンド「RADWIMPS」。ほぼ毎年、東日本大震災をテーマにした曲をネット上に無料で公開してきました。震災で直接被害にあうことはなかったメンバーたち。どんな思いで曲を作り続けてきたのでしょうか。(社会番組部 ニュース7ディレクター 松元泰祐)
多忙の人気バンドなぜ震災の曲を?
「前前前世」「なんでもないや」などを発表してきた人気ロックバンド「RADWIMPS」。
ライブやレコーディングなどで多忙を極めるメンバーですが、毎年この時期に行っているのが震災をテーマにした曲を発表することです。曲はCD販売などはせず、より多くの人に聴いてもらうようネット上に無料公開しています。
ほぼすべての作詞作曲を手がけているのが野田洋次郎さんです。
まさにことしの曲作りの真っ最中にもかかわらず、インタビュー取材の時間をいただきました。
被災地の出身ではなく、震災発生時も東京にいた野田さんは、直接、震災の被害は受けませんでした。
しかし、震災から受けた衝撃から歌を作らずにはいられなかったといいます。
野田さんが震災の発生から1週間ほどで曲を作り、翌年3月に発表したのが最初の曲『白日』でした。
「やはりあのとき日本に住んでいたすべての人がその前日3月10日とは全く違う自分になったと思うんですよね。あの出来事を経験して僕自身も当然そうだったし。この気持ちは残さないとと思ったんですよね。ただただ自然なこととして」(野田さん)
作りつづける忘れないために
その後もほぼ毎年、震災についての思いを曲にして発表してきました。
『ブリキ』(平成25年)
『カイコ』(平成26年)
『あいとわ』(平成27年)
『春灯』(平成28年)
そして、去年春には『空窓』(平成30年)を発表。
おととし(2017年3月)休校した福島県立浪江高校の最後の卒業生となった生徒たちから受け取った文章をもとにした曲です。
「あれからお前は どうしているか 見慣れぬ景色は もう慣れたか」(空窓・歌詞)
これらの曲には、被災した人々はもちろん被災しなかった人たちからも多くの反応がバンドの公式サイトに寄せられています。
「避難場所で別れた友達は津波に飲まれました。これまで何度も救われました。ありがとうございます(岩手)」
「聴いてうれしくなりました。私達を忘れてないんだと(福島)」
「自然に涙が出ました あの日のことをしっかりと覚えておこうと思いました」
野田さんは、作った曲が人々の心に届いたことは純粋にうれしいと感じています。
しかし、被災した人たちに「寄り添っている」などと思うつもりはないといいます。
「被災地に寄り添えるという感覚はなくてどこかおこがましいなと思って。だからぼくはもう被災しなかった人なのでそこから歩み寄るというよりは僕からみたいまの生の姿、被災地もそうだしこの日本の姿を僕の位置から歌い続けるしかないんだなと思う」
感じ始めた違和感新たな方向へ
野田さんは曲を作り続けるなかで迷いも生じてきたといいます。
ブログのなかでこうつづっています。
「来年以降も曲を作るかはわかりません。当たり前にやるかもしれません。ただ3月11日の、あの悲しみだけを切り取って一つの作品を作ることに少しずつ、違和感が生まれてきました」(2016年3月11日バンド公式ブログより)
こうした違和感を感じるようになってきたなか、去年は西日本豪雨など自然災害が相次ぎました。
特に昨年9月に北海道地震が起きた日の夜、野田さんはSNSでファンから寄せられる不安な声にこたえようとすぐにつくった曲をスマホを通じて発信しました。
ことし3月11日に発表した曲「夜の淵」は、こうして昨年災害のたびに感じて発信したことをかさねあわせ、1つの曲にしたといいます。
『夜の淵』
静かな 夜の淵
真っ黒な 空にぽつり
ひとつまた ひとつ光る
あれは いつかの光
もう少しで 朝がくる
眩しいほどの 光連れて
それまでは 心の中
小さなロウソク 大事に灯し
夢で手をつなぎ 一緒に眠ろう
あんなに近くで光る 隣同士の星よりも
僕らは ずっと近くで 息をする
運命めいて結ばれた あの美しい星座よりも
僕らは ずっと近くで 想いあう
何のため 生まれたのか
わからない 僕たちだけど
涙を流すためじゃ
ないことだけは たしかさ
それだけは たしかだ
あんなに近くに見える 隣同士の星よりも
僕らは ずっと近くで 息をする
運命めいて結ばれた あの美しい星座よりも
僕らはずっと近くで 想いあう
僕らは ぎゅっと手を 繋ぎあう
3月11日に発表されたこの曲にも、ネット上などで多くの反応が寄せられています。
「洋次郎さんは素敵な人だな 」
「あの日、道内は暗闇でした。地震、明日は我が身。ホントに。マジでね。洋次郎さん、ありがとう」
「どれだけの人が勇気をもらい、生きている当たり前を幸せだと感じたのかな」
起き続ける災害をみずらのことと受け止め曲として記憶にとどめておこうという営み。被災した人も被災しなかった人も曲をきいて、災害が起きたことに思いをめぐらせてくれたらうれしいと野田さんはいいます。
「被災した人たちも毎年毎年いろんな新しい思いが生まれるだろうし僕と同じように7年前、6年前とふりかえって自分の感情に決着をつけてここまでこれたんだと思ってもらえるなら本当にうれしい」
またみずからと同じ被災しなかった人たちにも。
「被災しなかった僕らみたいな人は曲をきっかけで本当にとてつもないことが日本で起きたことを忘れないでほしいしいつか自分の身に起きるなにか、毎年思いを新たにする日であってほしいと強く思っています」
忙しい音楽活動のなかにあって毎年のように起きる災害をわがことと受け止め、その思いを素直に音楽にしてきた野田さん。それに賛同し曲作りを一緒に行ってきたほかのメンバーやスタッフ。真摯(しんし)に社会に向き合いながら活動されていると感じました。
今回「RADWIMPS」が作ってきた震災の曲を何度も聴き、野田さんにインタビューをさせていただきました。
その取り組みや、作ってきた音楽は被災した人たちに癒やしや希望を与えるだけでなく、私自身も含め震災の被害を受けなかった者がどう震災と向き合っていけばよいのか、そのヒントを与えてくれているように感じました。
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